＠下北沢 駅前劇場 (2000/3/17-20 5ステージ) ＠大阪3/8-12
全自由（整理番号付き）前売 3,300円 当日3,500円
原作：近松門左衛門「心中天の網島」(1720年初演)
作・演出：蟷螂 襲 舞台美術：東正一 照明：太田文哉 音響：川嶋三千雄
舞台監督：東正一 装置：日本ステージ（株） 宣伝美術：田中康也
イラスト：西口司郎 プロデュース：古矢直樹 主催：吹田市文化振興事業団
出演
山内圭哉 ：治 （初音の夫、小春と俗に言う不倫。原作・治兵衛）
重定礼子[南河内万歳一座]：小春（葬儀社のスタッフ。原作・遊女小春）
内田淳子 ：初音（治の妻でいとこの間柄。原作・女房おさん）
蟷螂 襲[PM/飛ぶ教室] ：誠（治の兄。原作・粉屋孫右衛門）
紅 萬子 ：ウメ（初音の母親。原作・舅五左衛門相当）
大家仁志[劇団青年座] ：太吉（小春に思いを寄せる男）
久野麻子 ：さざなみ（太吉に思い寄せる女）
井上三奈子 ：珠子（治らの会社従業員。治、小春の味方）
2000/3/17(金)晴れ 7:05-9:10PM(2'00) 前方より 客席６割(50人)
客層：老若男女。２０才代女性を主に、おばさんちらほら。
客入れ：全椅子席。土足ＯＫ。最前列は前に余裕あり（舞台の砂が飛ぶせい
かしら）。折り込みパンフ。チラシ同様の縦にＡ４二枚分。挨拶、配役、スタッフ
掲載。物販不明。
近松の作品を現代劇化する試み、らしい企画。独特人情芝居のPM/飛ぶ教室主宰、
東京ではリリパットアーミーの役者としてしられた、蟷螂 襲が手がける今回。
江戸期、心中芝居が禁止となる直前、近松にとっても最後の心中物となる
「心中天の網島」を取り上げ。
舞台。建築用砂、用具を置いた殺風景、無機質な一角。中央、コの字コンクリ壁を
背後に砂の山。そのを囲うようにさらにコンクリ壁。積み上げたブロック、レンガ
やフォークリフト用置き台、 ねこ車、虎マーク衝立などが置かれ。
お話。家族同族な建築会社。長女初音の婿・治は仕事も半端。無為な生活を
送っている。浮気相手の小春とも切れたはず、がずるずるの様子。兄や妻、家族
は怒りながら、心配でしょうがない。というのも、治のすさみ具合からして、なにか
大事を、小春との逃避行、悪くして心中を起こすのではと思われるからだ。
意志薄弱でよくわからない夫に呆れつつ、愛していることを確かめる初音。彼女の
心配はまた愛人・小春にもあった。交わした女の約束、生きていくという誓い
（手渡した赤い傘を持ち続けること）が危うく思えてきたからだ。
近松作品のヒューマニズムを純化。女の義理、人としての友愛を細やかに描く
人情芝居。たっぷりと情感を盛り込みながら、悪戯に感傷に浸らせない骨太さ。
思い＝言葉大事と、時に文章しちゃうモノローグめいた台詞の丁寧さ。その絡まり
あい、受けとめる役者の充実。蟷螂襲作品の持ち味を、じっくり堪能できる秀作。
「天の網島」ですげえとねこ思うのは、女房・おさん。遊女小春との縁を切ったと
誓約しながら、泣く夫・治兵衛。未練かと聞けば、違う、さる大尽に身請けされる
と遊女小春が告白。誰にも請け出されぬの誓い破り、腐った女よと、怒りもする夫。
聞きながら、女房はもしや小春は死ぬ気？かと懸念。夫と切れることを、女の約束
と涙の小春と取り交わしていた、女房。死なせては女の義理が立たない。治兵衛が
小春を請け出されるよう、身代を処分してまで金を工面し、救おうとする。
人として、愛憎を越えた気高さがそこにあって、胸打たれちゃうねこ。
この舞台の初音もそう。死化粧を生業とし、生と死の重みをだれより受けとめ続ける
小春。彼女に傘を貸し与える初音。小春はこの世の苦役たる砂の雨を傘で受けとめ、
立ち続ける。やがて、生きて闘う彼女を解放するかのように、傘を預かるのもまた
初音。皮肉でいて優しい助力。そして、小春を彼方を夢みるダメ夫と共に旅立せる。
それが死の旅路であっても。望み叶わせる死によって、生かされていく小春と治。
逆説が哀切を呼んで、うるうるしちゃうねこ。
３人の周囲もまた細やかに描いていく。小春とすれ違い、ほんの少しふれあう哀しい
太吉。その不器用な愛情。太吉を見守るさざなみ、優しくも、待ち続けるその強さ。
娘・初音らが心配でばたばたしちゃう、ウメばあさん。ほんまにいい人柄。
綾なすつう言葉がふさわしい、思いの行き交い。蟷螂襲のホンの言葉は、ホント
過ぎるほどに丁寧。それと。人の彩りをもって描いてくよな、無地・無機質な空間美術
もなるほろねこ。
役者。蟷螂 襲の舞台らしく、女優がとても魅力的。男運が悪いようで、それも
幸せに転化しちゃうパワーある女性達。ばあさん役、紅さん。おもいきり大阪の
おばちゃん。ユーモラスで、可愛く、情がある、こてこてだけど◎。初音役、内田さん。
繊細でいて鮮やかな感情表現。その微笑みは天使のよう、怒りは阿修羅がごとし。
もう素敵。小春役、重定さん。ちょっと湿り気のある表情に女性らしさ。移ろう目の
表情が○。治、小春の味方役、井上さん。透明感ある、きりりとした様が清々しい。
治役、山内さん。悪意な役をきっつい演技でする事が多い彼。一転、今回は母性
本能くすぐりまくり。ダメなのに愛情感じさせちゃう、やさ男ぶりを好演。
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