弘前劇場「三日月堂書店」
＠下北沢 ザ・スズナリ(2000/5/3-7 7ステージ）弘前5/20-28
全自由 前売一般2,800円 学生2,000円 当日一般3,000円 当日学生2,500円
高校生以下 1,500円
作・演出：長谷川孝治 舞台監督：野村眞仁 照明：中村昭一郎
音響：原島正治[舞台音響 囃組] 装置：鈴木徳人 企画制作：弘前劇場
出演：
福士賢治 ：大石俊夫 （前科二十三犯）
後藤伸也 ：一戸進 （三日月堂書店店主）
佐藤てるみ：工藤さなえ（一戸と同居中の女）
長谷川等[浪岡劇研] ：中本隆司
佐藤誠 ：透 （高校教員、中本の息子）
藤本一喜 ：めぐみ （高校教員、大石の娘）
永井浩仁 ：木下和太郎 （自称探偵）
畑澤聖悟 ：元木将兵 （大学講師。社会学専攻）
濱野有希 ：浜中香織 （大学助手）
山田竜大 ：千葉春男 （大学生。ちょっと変）
大作綾 ：山田喜美子（大学生）
赤刎泰子 ：緑川純子 （大学生。エース）
高橋聡子 ：東雲律子 （大学講師）
2000/5/5(祝金)晴れ 2:05-3:35PM(1'30) 前方より 客席８割(120人)
客層：老若男女。男性がちと多め。やや大人な雰囲気。
客入れ：ゆったり埋まる客席。荷物預かりあるも、預ける人少。場内誘導は
特になし。折り込みパンフ。物語の背景、配役、スタッフ、予定を掲載。作家の
言葉はチラシに詳しいせいか、今回なし。
物販。過去の上演台本(1,000円)。今回のは後日作成、予約受付中。
舞台。調度に本物を使ったリアル美術。喫茶店兼業の古書展店内（元映画館ロビー）
３方向壁は本（一部文庫、ＣＤ）でびっしりと埋まった、８段のスティール書架。
数千冊はあろうというリアルさにおおっねこ。上側に木製の箱とかいくつかあり、
なに？。前側にどっしりとした楕円形の大型テーブル、座り心地よさそな椅子五脚。
奧側中央に机、大型の和文タイプ、電話、レジスター。下手は倉庫に繋がり、
手前コンロにコーヒー用ポット。上方にブラインドと窓、半地下らしく時折雲で
翳り、明るさが移ろい（店主は兼業農家、母屋の裏手に畑、水田がある設定。）
お話。青森のとある町、商店街の中にある古書店。喫茶店も併設、地元大学が近接
してるため、講師、学生たちがゼミに利用することも。常葉優雅に流れるそこも
その時ばかりは騒がしくなる。今日も、ゼミで侃々諤々、おまけにお宝なフィルム
が見つかったとかで狂乱狂騒。穏やかな店主は昔気質、いまどきパソコンもしらず、
和文タイプを愛用、「おまもり」と書棚の彫り物を常設している。女性と同居。
２人は気心が知られた、いい関係に見受けられる。
その午後に旧知の男が訪ねてくる。礼儀正しく、穏やかな物腰。１年ほどぶりと
いう男は食い逃げやら病的な犯罪常習者。刑務所に「帰る」と語る彼がそうする訳
を店主は問わず、頼まれていた本を手渡すのだった。
男の娘は縁談を控えていた。婿の父親、婿当人も男の性癖がどうにも理解できない。
いまはただ、式の当日まで「こちら」にいてほしいと願うだけだ。そして、慌ただしい
世間に居づらく思う人がもう一人。放浪癖がある店主の妻。いつでも自由に
していたいと連れ合いと籍はいれていない。もう最近はやってない、でももうそろ
そろダメかなと、疲れた風に問わず語り。連れ合いはといえば、その言はしらず、
予感に襲われたのか「おまもり」を掲げるのだった。
店主は男に問いかける、捕まるときにどうかと。何度しても心底怖いと答える男。
ついで店主の妻が駅にいたこと、今なら間に合うだろうと店主におしえる男。
ありがとうと店主、駆け出す前に男を無銭飲食で捕まえてくれるよう警察に通報。
その言葉に、男は静かに微笑むのだった。
大人なほど味わいな舞台。機知に富んだ台詞、丁々発止、高速高密度にネイティ
ブ津軽弁をまじえてかわされる会話、野蛮なほどエネルギー溢れた役者。そんじょ
そこらじゃ、足下にも及ばないほど、深耕された舞台がすばらしい。社会にある
危うさを積極的に取り上げた今回は、一層スリリング。弘前劇場をしても、収まり
きらない盛り込みに、これからの展開がますます楽しみねこ。
社会不適合と一言でくくられそうな人達を軸に、周囲と家族を描く。急進する
世の中についていけない、自分の居場所を内省する人達。店主らは相いれない者に
疑問を呈しても、拒絶はしない。その視点はとても優しく、世界に絶対などない
ことを透徹して鋭い。不理解を承知で共生を望む処から、本来の人の姿を浮かばせ
、ふむむ見事だねと思うねこ。ラスト、通報する店主の「思いやり」は格別
優しく、妻へのエゴも伴ってる（犯罪常習男の「身勝手」にしても）とことか。
とシリアスな内実あれど、好奇心溢れた速射砲バトルな会話◎。ストーカー行為
のフィールドワーク（超有名人のは実践済み）とか、やばそうなねたも面白い。
目からうろこ：漱石は大人が読む本・高校生禁止とか。単純すぎて忘れている
幸福を巡る話題：だぶだぶソース豚カツ、雪花な桜の美しさとか。自分と世間の
了見の狭さが再認識されたりして。この辺はネット社会になるほど、顕著になって
皮肉に興味深いねこ。
役者。畑澤さん。ますます野蛮で胡散臭くしながら知的。楽しい怪演。福士さん
背中で演技できる名優。後藤さん。抑制された演技に思い滲んで、しみじみねこ。
佐藤てるみさん。ちょっとため息などうしようもない思いを、これもしみじみ感じ
されて○。
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